REVIBRO社製高速フォーカシングMEMSミラーに関する技術情報|株式会社 ティー・イー・エム
TECHNICAL INFORMATION
技術情報
2021.04.07
レーザースキャニング
REVIBRO社製高速フォーカシングMEMSミラーに関する技術情報
はじめに
レーザーの発振が初めて確認されたのは1960年の事であり、その翌年には製品としてレーザー発振器が販売されたとレーザー機器に詳しい方々から漏れ聞いている。その後レーザー光を利用した分析、加工、通信、計測及び医療等様々な分野にアイデアや応用用途が広がって、現在に至っている。
そこで数多くの応用用途から求められるのが、レーザー光を自在にスキャニングしたり、フォーカシングさたりする事である。スキャニングに関してはミラー自体を振る方式と、表面を鏡面に仕上げた多面体を回転させる方式等が一般的である。これらの方式はレーザーの進歩と共に進化し、再現性と位置精度に関しては一目置く程の高性能を誇る。対してフォーカシング技術は、研磨技術の進歩や材料の純度の向上等リソグラフィーに代表される技術進歩は素晴らしいが、レーザービームの品質を損なわず、かつ任意の位置で焦点を自在に制御する事は未だに難しい。
例えば高速で集光点を制御するには、レンズをステージ上にセットし、ステージを動作させる方法が最も簡便かつ容易だが、電気的なジッターとステージの持つ静止状態から動作までの「立上り」と、動作状態から停止までの「立下り」の物理的なジッターが問題となる。またこれらの問題を最小限に抑えるには高トルクを発生可能なモーターや、それを駆動する電源等が必要になり、発熱、振動、音及び消費電力等問題点も浮かび上がってくる。
そこで高速動作が可能で、かつ任意の位置で焦点を自在に制御できるレンズを使用しない、次世代集光反射光学素子を紹介する。この素子は、米国REVIBRO社製MEMSベースのハイスピード・フォーカシング・ミラー MFCシリーズで、小型、軽量、無振動及び小消費力で動作する事が特長である。図1にミラー外観を示す。
図1MFCミラー外観
2.MEMS
2.1 駆動方式
能動的に動作するミラーでは、補償光学で使用されるディフォーマブル・ミラーが一般的だが、アメリカ・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂にある日本の国立天文台の大型光学赤外線望遠鏡「すばる」に採用された事は当時ニュースになり、補償光学を広く知らしめた出来事であった。この「すばる」の場合、望遠鏡に使用されている主鏡の直径は8mであり、厚さ20cmと聞いている。この巨大で重い主鏡は背面から261本のアクチュエーターで支えられており、アクチェエータを伸縮させる事で主鏡表面を制御し、任意の波面を作りだす事で観測映像の補整を行っている。
この様な一般的なディフォーマブル・ミラーの駆動にはアクチュエーター方式、マグネット方式もしくはバイモルフ・スプリング方式のいずれかで駆動しているが多いいが、どの方式も補償光学で必要とする波面補正レベルでしか動作は出来ず、REVIBRO社製ハイスピード・フォーカシング・ミラーのように、任意の位置で焦点を結ばせる事は困難と思われる。
上記理由から米国REVIBRO社では、静電方式を採用し、その開発に米国モンタナ州・モンタナ大学の協力のもと静電方式集光反射光学素子の開発及び実用化に成功した。
REVIBRO社が開発した静電駆動の基本原理は50年程前に考案されていたが、実用化は近年である。それは、理想的な集光(焦点)制御が困難であった事が一因と思われる。REVIBRO社は微小域での電圧調整を行う事で高精度かつ焦点位置を自在に制御し、この問題を解決した。また、静電駆動方式原理に関してREVIBRO社では特許を凸凹動作双方共に有しており、半導体製造工程と同様のプロセスで量産される。MEMSハイスピード・フォーカシング・ミラーは品質も高く、歩留まりは僅かであり、生産効性にも優れている。ウエハーから切り出した状態での反射光学素子を図2に示す。
図2反射光学素子
本駆動方式で重要な点は、微小域で制御可能な静電界を作り出す事であり、いかに他の静電界チャンネルと干渉せずに、正確に求められたストロークだけ静電力により金属膜を引きつけ平坦な面から凹面を作り出すかである。この動作原理を簡素に次に示す。
図3デフォルト時の収差マップ
図4電極配置
図3はデフォルト状態でのハイスピード・フォーカシング・ミラー反射面の収差マップで、図4はMEMS内部に設置した静電界を作る電極配置である。また、電極に電圧を印加した際の基本動作イメージと、平坦からの表面の変位を干渉縞にて示したイメージを図5に示す。
図5動作イメージ
REVIBRO社のデータによれば、デフォルト時の平坦面(∞)から67mm(短焦点)の制御を行え、その際集光点に影響を及ぼす無振動や発熱を観測していないとの事である。
図6と7にその際の応答時間データを示す
図6
図7
次に、一般的な光学仕様に関してREVIBRO社製ハイスピード・フォーカシング・ミラー MFCシリーズの仕様を表1に示す。示されている数値は基本的な値であり、必要が有れば仕様変更にも対応可能との事である。
Mirror Specifications |
|
Mirror diameter |
2 - 4 mm |
Maximum stroke |
18 µm |
Minimum focal length |
<67 mm |
Settling Time |
<200 µs |
Mirror flatness |
<30nm RMS |
Mirror material |
Aluminum, Gold, Silver |
Operational temperature |
15° C to 35° C |
Operational humidity |
<50% RH |
Standard Housing dimensions (custom packaging available) |
Diameter: 25.4 mm |
表1仕様値
2.2 優位点
REVIBRO社製ハイスピード・フォーカシング・ミラー MFCシリーズは、2.1項駆動方式で述べた通り、システム細動の為に、一連の同心電極から、ミラー表面の形状を僅か100µs未満の短時間で変化させ収差修正を可能にしている。また、機能面においても、先に述べた収差修正に加え、可変速度、繰返し周波数、任意位置での集光、及び色収差なし等各項において総合的なフォーカス制御ソリューションの提供が可能である。
3.おわりに
REVIBRO社によれば、本集光反射光学素子(ハイスピード・フォーカシング・ミラー MFCシリーズ)は、共焦点二光子顕微鏡、マシンビジョン及びハイスピードイメージング等が適している応用用途と考えているが、昨今の市場要求では、高出力レーザーの対応が数多い。そこで、高反射コーティング及び、大口径化の開発も進めており、早期製品のリリースが今後の課題である。
MEMSミラー製品紹介
参考文献
REVIBRO社技術資料