次世代画像解析に求められる3D断層イメージング対応SD-OCT用分光ユニット最新情報 (Wasatch Photonics社)|株式会社 ティー・イー・エム
TECHNICAL INFORMATION
技術情報
2021.10.12
OCT
テーマ:
次世代画像解析に求められる3D断層イメージング対応SD-OCT用分光ユニット最新情報 (Wasatch Photonics社)
1.OCT技術の進化
光コヒーレンストモグラフィー(OCT)は、光を用いて深さ数ミリ程度の範囲にて、断層像を数μm程度の高い分解能で観察できる事が広く知られている。OCTは非侵襲、かつリアルタイムでの観察が可能な事から、近年はその応用用途範囲が大幅に広がり、産業、医療、生体等の様々な分野で利用されている。
また3次元OCT装置により、立体的な3D構造や形状変化を伴う解析にも活用が進められている。3Dイメージングは2Dイメージングと比較して、そのデータ量が膨大な事を受け高速なデータ処理技術も合わせて開発されている。現在、大半のOCT装置は、フーリエドメイン型でこの高速データ処理を担っている。フーリエドメイン型OCTには、スペクトルドメイン型OCT(SD―OCT)と波長掃引型OCT(SS-OCT)の2つの方式が存在する。
実際の測定速度はSS-OCTでは光源の波長掃引速度に制限され、SD-OCTではCCD(分光器検出器)の読出し速度に依存する。
次に高速データ処理が進み、リアルタイム観察が容易に行われる様になると、イメージングに対する更なる分解能の向上等多くの要求を耳にする。
そこで、今回は産業用途に求められる次世代OCTイメージングの鍵となるSD-OCT専用分光器について米国Wasatch Photonics社製品を例に、干渉信号強度を維持し、かつ深度方向ロールオフを最小限に抑えるSD-OCT用分光ユニットに関する諸性能を紹介する。
2.SD-OCTが求める分光器性能
OCTは低コヒーレンス干渉測定に依存している。ここで用いられる分光器は、吸光度、蛍光もしくはRaman分光で使用される分光器とは大きく異なる。OCTサンプルから反射された光は、不特定な偏光モードを持つ可能性が有る為、分光器が有する偏光依存性を限り無く少なくする事が重要である。OCTサンプル表面からの反射は、S偏光に有利な為に従来の反射型回折格子を使用する事は非常に困難である。次に良好なイメージングを得るには、従来の分光測定で得られるスペクトルピークの位置や、スペクトルの相対強度及び絶対強度はOCTの低コヒーレンス干渉測定には重要ではなく、スペクトル領域での干渉パターンを重視しており、特に分光された光が検出器(CCD)に入射する際に発生するクロストークは深度方向の関数としてイメージング像の感度低下を招く為に、波長分解能の高い分光器が必要である。
Low coherence interferometry of infrared light is used to estimate the time of flight, quantifying depth and providing micron-level resolution.
3.Roll-off
Roll-offとは、信号強度は深度とともに減少し、OCTサンプルを深くプローブする事に比例してOCTイメージングに影響を与える事である。またRoll-offに関連して、通常のSD-OCTで示される総イメージング深度はカットオフポイントではなく、ナイキスト周波数に対応する深さで示される。以下に示すグラフは感度低下と測定深度の典型的な例である。SD-OCTを検討する際には、先に述べたCCDカメラピクセル間のクロストークの影響を無視する事は出来ず、Roll-offに与える影響は大きい。良好なRoll-offを得る為には、適切なCCDを選択する事が必須であり、CCD選択には分光器との光学的なマッチングはもとより、ユニットとして環境変化依存性を考慮した機械設計が図られているか否かも十分考慮する必要があると思われる。
4.次世代画像解析に求められるSD-OCT用分光器ユニット
Wasatch Photonics社製SD-OCT用分光ユニット(Model : Cobra)は10年以上多様な応用用途で様々なSD-OCT製品に組込まれ使用されてきた。以下に主な理由を示す。
- 偏光依存損失の少ない自社製高効率透過型回折格子
- 高感度、かつ高速読出しCCD
- 環境依存性の極めて少ない堅牢、かつコンパクト筐体
- 良好なRoll-off
- 低迷光比
5.最適化が図られたSD-OCT用分光ユニット性能
SD-OCT用に透過型回折格子と専用設計レンズの組合せで最適化が図られたWasatch Photonics社製品と、既存のアクロマティック・レンズで構成された分光器を比較した表を以下に示す。
上記MTF(変調伝達関数)曲線とスポット図から、SD-OCTで良好な信号を得る為に熟考された光学設計が重要である事を示している。例えば、最適化されたレンズはMTFグラフ内で優れた変調伝達関数を示すが、既存のアクロマティック・レンズでは両端でMTFの大幅な変化を示している。また、最適化されたレンズは50line/mmの周波数で80%よりも良好で、10μmピクセルのナイキスト周波数に対応している。同様に下表のレイトレーシングでもスポットサイズの大きさから、既存のアクロマティック・レンズにおける収差の発生及びRoll-off性能の低下が示されている。
6.終わりに
近年、Wasatch Photonics社では応用用途の開発に注力している。これまで述べたSD-OCTの特長を活かし、応用が期待できる分野は、食品、薬品、高分子材料及び半導体等が日本での代表的な例と思われる。堅牢、かつポータブルなユニットは、使用環境を選ばず、従来のOCT概念を変えるものと期待する。
そこで、上記内容でSD-OCT用様に特化したWasatch Photonics社製分光ユニットの紹介を詳細に渡り行ったが、熟考された専用設計により同社製品が他社比較で40%以上の優れたRoll-offを実現し、かつ250kHzに達するスキャン速度で従来製品の2~3倍の動作速度で機能する事が特記事項である。
微力ではあるが、本製品情報が求められる次世代画像解析に貢献できれば嬉しい限りである。
参考文献
Wasatch Photonics社技術資料