非破壊検査・非侵襲・深部断層イメージングSD-OCT用分光ユニット (Wasatch Photonics社)|株式会社 ティー・イー・エム
TECHNICAL INFORMATION
技術情報
2022.07.19
OCT
テーマ:
非破壊検査・非侵襲・深部断層イメージングSD-OCT用分光ユニット (Wasatch Photonics社)
1.OCT技術の進化
光コヒーレンストモグラフィー(OCT)は、光を用いて深さ十数ミリ程度の断層像を数μm程度の高い分解能で観察できる手法である事が広く知られている。
OCTは非破壊、非侵襲、かつリアルタイムでの観察が可能な事に加え、高感度化により近年はその利用領域が大幅に拡大し、産業、医療、生体等の様々な分野で利用されている。
また容易に3次元イメージングを行う事が可能で、立体的な3D構造や形状変化を伴う解析にも活用が進められている。3Dイメージングは2Dイメージングと比較して、そのデータ量が膨大な事を受け、高速なデータ処理技術も合わせて開発されている。現在、大半のOCT装置は、フーリエドメイン型でこの高速データ処理を担っている。フーリエドメイン型OCTには、スペクトルドメイン型OCT(SD―OCT)と波長掃引型OCT(SS-OCT)の2つの方式が存在する。
今回は産業用途に求められる次世代OCTイメージングの鍵となるSD-OCT専用分光器について米国Wasatch Photonics社製品を例に、干渉信号強度を維持し、かつ深度方向ロールオフを最小限に抑えるSD-OCT用分光ユニットに関する諸性能を紹介する。
2.SD-OCTが求める分光器性能
OCTは低コヒーレンス干渉測定に依存している。ここで用いられる分光器は、通常の分光で使用される分光器とは大きく異なる。OCTサンプルから得られる信号光は、不特定な偏光モードを持つ可能性が有る為、分光器が有する偏光依存性を限り無く少なくする事が重要である。OCTサンプルからの干渉光は、S偏光に有利な為に従来の反射型回折格子を使用する事は適しているとは言えない。
次に良好なイメージングを得るには、従来の分光測定で得られるスペクトルピークの位置や、スペクトルの相対強度及び絶対強度はOCTの低コヒーレンス干渉測定には、それほど重要ではなく、スペクトル領域での干渉パターンを重視しており、特に分光された光が検出器(CCD)に入射する際に発生するクロストークは深度方向の関数としてイメージング像の感度低下を招く為に、波長分解能の高い分光器が必要となる。
Low coherence interferometry of infrared light is used to estimate the time of flight, quantifying depth and providing micron-level resolution.
高速データ処理が進み、リアルタイム観察が容易に行われる様になると、イメージング時間に対する更なる高速化の要求を多く耳にする。
SD-OCTのイメージング速度は、CCD(検出器)の読出し速度に依存している。現在は250kHzに達するLine-RateのCCDが供給されており、市場からの要求に応えているが、今後更なる高速化が進むものと思われる。
3.Roll-off
Roll-offとは、信号強度が深度とともに減少し、OCTサンプルを深くプローブする事に比例してOCTイメージングに影響を与える事である。またRoll-offに関連して、通常のSD-OCTで示される総イメージング深度はカットオフポイントではなく、ナイキスト周波数に対応する深さで示される。以下に示すグラフは感度低下と測定深度の典型的な例である。
SD-OCTを検討する際には、先に述べたCCDカメラピクセル間のクロストークの影響を無視する事は出来ず、Roll-offに与える影響は大きい。良好なRoll-offを得る為には、適切なCCDを選択する事が必須であり、CCD選択には分光器との光学的なマッチングはもとより、ユニットとして環境変化依存性を考慮した機械設計が図られているか否かも十分考慮する必要があると思われる。
In an OCT spectrometer, signal strength decreases with depth, impacting image quality as you probe deeper into the sample. This phenomenon is called roll-off.
4.次世代画像解析に求められるSD-OCT用分光器ユニット
Wasatch Photonics社製SD-OCT用分光ユニット(Model : Cobra)は自社製透過型VPH回折格子の採用によりコンパクトな光学設計を可能にし、以下に示す利点から10年以上多彩な応用用途で様々なSD-OCT製品に組込まれ使用されてきた。
全製品に共通して備わっている性能は、優れた1次回折効率により、感度及びスキャン速度が向上。全スペクトル帯域にわたる優れた均一性と最小偏光依存性等である。
- 偏光依存損失の少ない自社製高効率透過型回折格子
- 高感度、かつ高速読出しCCD
- 環境依存性の極めて少ない堅牢、かつコンパクト筐体
- 良好なRoll-off
- 低迷光比
5.最適化が図られたSD-OCT用分光ユニット概要
Wasatch Photonics社製SD-OCT用分光器ユニットは840nmを中心とする多くのラインナップを取り揃えている。各製品それぞれが市販の広帯域半導体レーザー(Super Luminescent Diode)に対応しており、OCT設計を容易にしている。また、重量僅か700gの小型・軽量筐体は設置場所の自由度を広げ、OCT装置全体の小型化にも貢献している。
ソフトウエアに関しては、C++、C#、LabView及びMatLabに対応しているソフトウエアを供給しており、先に述べた250kHz Line-RateでFFT処理前の高速データ読出しを可能にしている。
以下に製品一覧表を示す。
Product |
Models Available |
Key Benefit |
Applications |
400-700 nm (80-200 nm bandwidths) |
Maximum information – blood oxygenation mapping |
Angiography, 3D blood oxygenation mapping, high-res retinal imaging, 3D microscopy |
|
650-950 nm (28-300 nm bandwidths) |
Maximum speed & resolution |
Retinal & anterior chamber imaging, angiography, vibrometry, real-time 3D imaging, material inspection |
|
650-950 nm (60-300 nm bandwidths) |
4096 pixel camera |
Legacy design; niche applications |
|
1000-1110 nm (110 nm bandwidth) |
Maximum versatility |
Choroidal imaging, retinal vasculature, guided photocoagulation therapy |
|
950-1690 nm (73-500 nm bandwidths) |
Maximum imaging depth |
Dermatology, anterior segment imaging, sub-surface material inspection |
|
1450-1690 nm (240 nm bandwidth) |
Highly scattering samples |
Optical coherence microscopy, intravascular OCT, non-destructive testing |
6.終わりに
Wasatch Photonics社では、OCT用透過型回折格子供給会社として特定のアプリケーションや光学設計の要望に合わせVPH回折格子を最適化する為の多くの技術を提供している。システム設計から市場投入に至るまで、手厚いサポートを行い、これまで述べたSD-OCTの特長を活かし、堅牢、かつポータブルな優れたユニットを供給する事は同社のポリシーである。
SD-OCTに特化した同社製分光ユニットの紹介を詳細に渡り行ったが、熟考された専用設計により同社製品が他社比較で40%以上の優れたRoll-offを実現し、かつ250kHzに達するスキャン速度で従来製品の2~3倍の動作速度で機能する事が特記事項である。この事は手前味噌ではあるが、従来のOCT概念を変えるものと期待する。
7.参考文献
Wasatch Photonics社技術資料