反射防止膜(ARコート)付き光ファイバーの利点|株式会社 ティー・イー・エム
TECHNICAL INFORMATION
技術情報
2019.10.15
光ファイバー
反射防止膜(ARコート)付き光ファイバーの利点
光ファイバーメーカーの独CeramOptec(セーラムオプティック)社では、社内で反射防止コーティングを行う技術を持っているため、光ファイバー製造から、アセンブリ、反射防止コーティングに至るまで、一貫した品質でのご提案が可能です。
同社が掲載した記事「Improved Supply – Decreasing Costs Standardized anti-reflection coating unlocks new avenues for fiber optics」について、弊社で和訳した内容をご紹介します。
反射防止コーティングの供給体制の改善とコストの減少
供給体制の改善によって標準化された反射防止膜(ARコーティング)は、光ファイバーの新たな可能性を引き出す
Holger Bäuerle
これまで酸化物ベースのARコーティングは、光ファイバーの透過率を著しく増加させるにもかかわらず、そのコーティング手順やコスト面から広く採用されていませんでした。しかし、コーティング手順の発展と標準化により、この現状は変化するかもしれません。将来、効率的な結果をもたらすARコーティングは、今よりもはるかに容易かつ低コストで入手可能となるでしょう。
現在、光ファイバーの専門家は、石英ベースの光ファイバーに対するより厳しい光スループット要件に直面しています。光ファイバーは産業および医療分野の両方において、光を著しい損失なしに伝送することで、それぞれの用途における機能を最適にすることが期待されています。分光分析の分野でも、分析の精度は特定の波長で最良の透過率が得られることに依存しています。これは金属加工、3D印刷、および手術などにおけるレーザー応用でも同様です。光源のエネルギー効率は多くの場合理想的ではないので、光ファイバーの伝送品質もますます重要となっています。
例えば工業用レーザーと重水素ランプの2種においては、30~40%以下の伝送効率を達成しますが、CO2レーザーは10%にさえ達することができません。エネルギーコストの上昇の観点からも、伝送効率の著しい損失は望ましくない影響を及ぼします。したがって、多くのユーザーは光ファイバー側での優れた伝送値を得ることによって、光源の効率の欠如を補おうとしています。
光ファイバーにおいて課題となる反射損失
これらの開発状況を考慮して、主要な光ファイバーの専門家は製品の伝送特性の改善のための研究開発に多額の投資をする傾向にあります。そして、いわゆる反射損失は伝送特性の改善における最大の課題の1つであることが判明しました。反射損失は光の一部がファイバーの前面によって反射され、目的の地点に届かないときに起こります。反射損失は、石英ガラスの屈折率およびそれぞれの用途の仕様に依存するため容易に定量化することができませんが、平均約7~8パーセントの伝送損失を仮定しなければならないでしょう。これは、透過光のほぼ10分の1が、ファイバー前面での反射のために失われることを意味しています。特に、多くの場合持続的に動作する産業向けレーザー用途では、この損失が重要な経済的要因となることがあります。特定の波長で増幅される反射もまた、深刻な問題となります。これは特に分光法の分野に適用されていますが、材料によって特定波長の選択が必要な、レーザーベースの金属加工にも適用されます。
ARコーティングは、反射損失を最小にする
多数の光学部品、例えば、カメラレンズおよび眼鏡に適用された場合に、反射損失に対するその有効性が証明されている手順として、最も効率的なアプローチが反射防止膜(ARコーティング)の適用です。光ファイバーにおいて、これらのコーティングは通常酸化物、例えば、二酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)、または二酸化ハフニウム(HfO2)からなり、これらは、光ファイバーの製造プロセスに続いて研磨された前面に層(レイヤー)として施されます (図1) 。これらの酸化物層は、他の光学製品に施されるようなARコーティングと同様に、反射光の波の位相を半分だけシフトさせ、反射を大幅に除去します。これはARコーティングが全ての石英ベースの光ファイバーにおける反射損失を、従来の7~8パーセントから0.1パーセント未満に減少させるほどの大きな効果があることを意味します。
その大きな効果を実際に達成するために、全く異なる多数のコーティングが必要となります。所望の反射低減が達成されるためには、石英ガラスの屈折率に応じて様々な材料と層の密度を試験する必要があります。
コーティングの好ましい方法は、真空ベースの物理蒸着法(PVD)です。この方法は、特に高い損傷閾値が達成されることを確実にし、層は、高性能レーザーからの強い放射にも永続的に耐えることができます。
反射防止コーティングは、標準化というハードルによりブレークスルーが妨げられてきた
反射防止コーティングは、高い反射低減効果があるにもかかわらず、これまであまり進歩していませんでした。反射防止コーティングの利点を理解し、一貫して利用するエンドユーザーはすでに多数存在していますが、広範に使用されていません。その理由の多くは、入手可能性の不足によるものです、コーティングされたファイバーを探している人は、比較的長いリードタイムを受け入れ、光ファイバーの供給者とは異なる第三の業者を関与させるために追加料金を考慮しなければなりませんでした。光ファイバーの供給業者は、コーティングを自社の製造プロセスに統合する意思がほとんどなく、そのため、コーティング塗布の依頼の大部分は適格な専門会社に委託され、それが追加費用となっていました。さらに、PVD手順は各波長に対してカスタマイズされることが多く、リピート利用されるビジネスはまれであったので、コーティング塗布を専門にするサプライヤでさえも標準化されたプロセスをほとんど持っていませんでした。この標準化の欠如は、余計な費用の要因ともなりました。
標準化された手順は、包括的な適用を可能にする
市場の課題の増加していることを考慮して、光ファイバーの製造業者は現在の手順ではARコーティングが広く活用される見通しが立たないことを認識するようになりました。ARコーティングは、光ファイバーの光スループットを大幅に増加させるための有効な手段であることがわかっているため、競争力のある価格で提供されるようにする必要があります。そのためには、ARコーティングが製品の標準化されたPVD手順にて、ファイバー製造業者によって製造プロセス中に適用される場合に最も達成できる可能性が高くなります。
CeramOptecは、このルートを採用した最初の企業の1つでした。世界有数の光ファイバースペシャリストである同社は、ラトビアのリバニにある製造拠点に最先端の物理的気相蒸着設備を追加し、あらゆるタイプのARコーティングを自社の製品範囲に統合できるようにしました(図2)。
1つの波長の単一のARコーティングは、全波長スペクトルのための広帯域ARコーティングと同様に容易に提供できます。これらのコーティングのための最も経済的な製造方法を追求するために、CeramOptecは、一貫した標準化戦略を選択しました。例えば、古典的なUVB波長266nm (図3)、ならびに980nmおよび1550nmの波長のための標準化されたコーティング手順が既に開発されており、そのほかの波長の標準化も順次対象とされています。1立方メートルを超える使用可能な空間および1100mmの内径をもつ真空チャンバーで、非常に長いファイバーにもコーティングが可能となっています。
結論
標準化された独自のコーティングプロセスの発展は、ARコーティングの利用可能性を増加させ、同時に製造コストを著しく減少させます。それにより、ARコーティングされたファイバーの包括的で広範なレベルでの採用が初めて実現可能になります。このコーティングのオプションは、着実に増大する伝送要求の観点から、多くのエンドユーザーにとって非常に魅力的です。特に、工業用レーザー技術は、新たな適用分野に継続的に拡大し、これらのコーティングの導入から大幅に利益を得ることができるでしょう。レーザーの出力の約10パーセントの損失は、長期的にはマルチキロワット範囲で動作するアプリケーションにとっては許容されません。ARコーティングは、その問題に対する解決策を提供し、将来の選択肢を示すことができます。したがって、CeramOptecのような製造業者は、需要の増加を期待し、近い将来、多数の標準化されたコーティングプロセスを提供するでしょう。
DOI: 10.1002/phvs. 201900012
著者
Holger Bhauerle (51)は、光ファイバー事業に20年近く従事してきました。2006年、電気技術事業、建築技術分野、プラスチック業界で雇用された後、ドイツの光ファイバーコネクター専門家の営業マネージャーとなりました。2018年以降、同氏はCeramOptecの副社長を務め、欧州、北米、インド、アジアのすべての営業部門を担当しています。