アプリケーションと波長選択
ラマン分光法では、サンプルに十分なレーザー強度が供給されれば、どのようなレーザー波長でもラマンスペクトルを生成できます。しかし、特定のサンプルに対して最適な励起波長を事前に決定することは難しいことです。蛍光や励起効率などいくつかの要因を考慮する必要があります。
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無機系サンプル
推奨レーザー励起波長: 405nm, 532nm- 炭素系ナノマテリアル(グラフェンなど)、半導体材料
- 金属酸化物、鉱物、宝石類分析
- 共鳴ラマン計測
- SERS(表面増強ラマン散乱)
励起波長405nm, 532nmは、高いラマン散乱強度を得る事が出来る一方でサンプルによってはダメージを与え蛍光が発生いたします。この問題を解決するためにはより長波長の選択が必要です。
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有機系サンプル
推奨レーザー励起波長: 633nm, 785nm, 830nm- 化学薬品、有機物質
- 医薬品、薬物、食品
- 生体サンプル、医療診断
- SERS(表面増強ラマン散乱)
励起波長633nm, 785nm, 830nmは、サンプルからの蛍光をおさえ良好なラマン散乱強度を得る事が出来るため、各用途に対応したバランスの良い代表的な波長です。
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有機系サンプル
推奨レーザー励起波長: 1064nm- 食用油、医薬品、ポリマー
- インク、色素、染料、ニス
- 炭素系物質、半導体
- 生物系サンプル、医療診断
励起波長1064nmは、サンプルからの蛍光を軽減出来る波長です。然しながら、ラマン散乱強度が微弱のためこの波長帯では優れたSNRを有する分光器が必要とされます。
スペック
WP Raman Spectrometer Series
※スペックは一例です。仕様により異なりますので詳しいスペックはお問い合わせください。
※検出器仕様 A:Ambient(冷却無し) R:TEC Regulated (10℃) C:TEC Cooled (-15℃)
検出器冷却
Ambient (非冷却)、Regulated (~10℃)、TEC (~-15℃)の3種類から冷却オプションをご選択頂けます。 高感度検出を必要としない標準的なアプリケーションにおいては非冷却検出器でも十分ですが、非常に低い検出限界(LoD)や多くの積算時間を必要とする測定をご要望の際は読み出しノイズを抑えたTEC冷却を推奨致します。
スリットサイズ
スリットサイズによる感度と分解能はトレードオフです。 サイズの大きさに比例しより多くのラマン散乱光を分光器に入射出来るため感度が向上しますが、一方で分解能は低下します。Wasatch Photonics社製分光器はf値1.3と非常に明るく、狭いスリットサイズにおいても高感度測定が可能のためサイズは10um, 15um, 25um、または50umを用いた高分解能での微弱信号の測定が可能です。
インテグレーション
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モジュラーシステム
fully modular systems分光器、励起光源、プローブ、ファイバーからなる構成です。既存システムを拡張できます。
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光源内臓型システム
Semi-integrated systems励起光源(LD)が一体となった分光器です。堅牢、コンパクトかつ柔軟さを残した構成です。
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全一体型システム
Fully integrated systemsサンプルホルダーまで一体化された最もコンパクトで高効率な分光器で再現性の高い測定が可能です。
装置組み込み用 OEMタイプXMシリーズ
WP Ramanシリーズの高感度・堅牢なコンセプトのまま、装置組込用途などでより小型・軽量なXMシリーズを選択可能です。XMシリーズはXシリーズとはスペックが異なりますので詳しくは弊社までお問い合わせください。XシリーズのカスタムメイドOEMについてもお気軽にご相談ください。
プローブ
長さ4cm焦点距離11mmの標準のプローブチップの他、接触/浸漬に適したBallProbe®や、SM05ねじ付きアダプタで焦点距離50mmまでのレンズキットなどをお選びいただけます。
ラマン励起レーザー光源
ラマンスペクトルの品質には、提供されるレーザーの特性が影響します。Wasatch Photonicsは最適化されたラマン励起レーザーをご用意しております。ベンチトップレーザー(248〜1064 nm)はもちろん、スペース、コスト、操作性でアドバンテージのある内蔵型レーザーを備えた分光器も提供しています。
計測・制御ソフトウェア
Wasatch社が独自に開発したラマン分光器制御用ソフトウェア”ENLIGHTEN”は、初めてラマン分光器をお使いになるお客様でも直感的に操作できます。ソフトウェア上でレーザーのON/OFF※1、各種パラメータの設定、バッチ測定、スペクトラムの比較等を行えます。 ENLIGHTENはすべてのラマン装置に付属します。
ソフトウェア開発キットもご提供しており、NET、VisualC+、Phyton、Delphi、Labview、Matlab、Excel等各種プラットホームにて使用頂けます。
※1 LD搭載型に限ります。外部光源を使用される場合は個別に操作する必要があります。
分析ソフトウェア・ライブラリ
取得したスペクトルデータのピーク分析、他のソースとの多変量分析など、ご要望に応じて別途分析ソフトウェアをご提案致します。
また物質の同定などライプラリマッチング機能が必要な場合は、Wasatch社ラマン分光器購入特典としてWILEY社ラマンライブラリの試用登録が可能です。※期間の制限有り。
詳しくはお気軽にお問合せ下さい。
WP Raman XL Spectrometer Series
極めて小さなラマンシグナルの測定には、より深い冷却とより長い測定時間を可能にする ANDOR iDus カメラの搭載に最適化されたXLシリーズもご用意しております。XLシリーズはモジュラーシステムでご提供しております。
WPラマン分光器の特長
低迷光
迷光はスペクトル、SNR、検出限界(LoD)を劣化させる要因になります。 Wasatch社ラマン分光器は高透過率、低偏光依存性の透過型VPHグレーティング*1の搭載により、迷光を最小限に抑えます。
*1: 体積位相ホログラフィックグレーティング
高感度
励起波長830nmのラマン分光器WP-830を使用しシクロヘキサンを 積算時間2秒にて測定した一例です。スリットサイズが2倍の標準的な f値4CCT型*2分光器と比べ、10倍以上のラマンスペクトル強度を 得ております。
*2: ツェルニーターナー型分光器
高い検出限界(LoD)
WP-830を使用し、水で6倍に希釈した濃度0.05%のイソプロピルアルコールを定量測定した一例です。 標準的なf値4CCT分光器の LoD = 濃度3.06%に比べ、WP-830は0.13%まで測定可能です。
測定時間の短縮
WP-830を使用しシクロヘキサンを測定した一例です。 WP-830は測定時間わずか2秒で高強度なラマンスペクトルを取得し、対して標準的なf値4CCT分光器は21秒を要しております。
環境依存性
WP-785を使用しXeスペクトルの温度シフトを測定した一例です。 0~40℃の温度サイクル下におけるシフト量はわずか< 2pixelとなっており、標準的なf値4CCT分光器と比べ半分の値です。 これは本製品が温度変化に強く環境依存性の低い筐体であることを示しております。
関連リンク
Choosing a Portable Raman Spectrometer (Laser Focus World)